学習記録

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アラビア語でクルアーンを読んでみる(開端章)

アラビア語コーランを読んでみる(開端章)

趣旨

アラビア語学習の一環として、アラビア語クルアーンの逐語訳をします。
素人が趣味でやっているため誤りもあると思いますが、その点は指摘していただけると非常にありがたいです。

参考資料

  1. 日亜対訳クルアーン(中田訳)
  2. コーラン(井筒訳)
  3. アラビア語文法ハンドブック
  4. Arabic English Dictionary Of Qurʾanic Usage: コーランに出てくる単語のみが乗っている辞書。語根や単語の意味などはこの辞書を主に使用します。 
  5. Arabic English Dictionary(Hans Wher): コーラン以外の単語も載っている辞書。
  6. クルアーンの原文はquran.comというサイトからとってきています。

開端章のアラビア語(音はYoutubeで聞けます)

第一節

بِسْمِ ٱللَّهِ ٱلرَّحْمَـٰنِ ٱلرَّحِيمِ ١

各単語の音:bi-smi allāhi ar-raḥmāni ar-raḥīmi

品詞分解

  • bi-smi => bi + ismi

    各語の意味

    • bi: 前置詞
      「~とともに」、「~によって」、「~に誓って」等の意味を持つ。
    • ismi: 属格名詞. 語根は「高さ、印、名前」等を表すする[s-m-w]。ここでは「名前」を意味します
  • allahi: 属格名詞. 語根は「神聖なもの」を表す[ʾ-l-h]
    この語がイスラム教での唯一神アッラー」を意味します。
  • ar-raḥmāni: 属格形容詞. 語根は「子宮、親戚、慈悲」等を表す[r-ḥ-m]
    神の属性の一つである、「慈悲深い」という性質を表します。
  •  ar-raḥīmi: 属格形容詞.
    語根は"ar-raḥmān"と同様。神の属性の一つである、「憐み深い」という性質を表します。
    同じ語根を持つこれらの2語は、「慈悲深く慈愛あまねき(中田訳)」のように似た感じに訳されています。ただ、"raḥīm"が神にも人間に対しても使用される形容詞であるのに対して、"raḥmān"が神のみに使われる形容詞であるという点に違いがあるようです。

上の単語をつなげると、「慈悲深く憐み深いアッラーの名によって」というような意味になります。

第二節

ٱلْحَمْدُ لِلَّهِ رَبِّ ٱلْعَـٰلَمِينَ ٢

各単語の音: al-ḥamdu li-llāhi rabbi al-ʿāramīni

各語の意味

  • al-ḥamdu: 主格名詞. 語根は「称賛、賛美」等を意味する[ḥ-m-d]
    この語根は預言者ムハンマド(muḥammad)の名前の中にも入っており、名前の意味は「称賛される者」という風になります。
  • li-llāhi => li + allāhi

    各語の意味

    • li: 前置詞
      「~のために」、「~に属す」等の意味を持つ。
    • allāhi: 属格名詞. 既出なので省略
  • rabbi: 属格名詞. 語根は「主人、教育、養育」等を表す[r-b-b]
    前の語と同格なので「アッラー=主人」と考えれば良いでしょう
  • al-ʿāramīni: 属格複数形名詞. 語根は「印、知識、世界」等を表す[ʿ-l-m]
    ここでは「諸世界」という意味になります。

上の単語をつなげると、「称賛は諸世界の主人、アッラーに属す」というような意味になります。

第三節

ٱلرَّحْمَـٰنِ ٱلرَّحِيمِ ٣

各単語の音: ar-raḥmāni ar-raḥīmi

各単語の意味: 既出なので省略
前節の続きとしてここも"allāhi"と同格で「アッラー=慈悲深く憐み深い」という意味で取ればよいでしょう。

上の単語をつなげると、「慈悲深く憐み深い方に(称賛は属す)」という意味になります。

 第四節

مَـٰلِكِ يَوْمِ ٱلدِّينِ ٤

各単語の音: māliki yawmi ad-dīni

各語の意味

  • māliki: 属格名詞:語根は「所有、支配」等を表す[m-l-k].
    第一型の名詞malakaの能動分詞型です。意味としては「支配者、所有者」となります。この語も同格で「アッラー=支配者」となります。
  • yawmi: 属格名詞:語根は「日、現在、時間」等を表す[y-w-m]
    これは前の語にかかって「日の支配者」という意味になります。何の日なのかは次の語でわかります。
  • ad-dīn: 属格名詞: 語根は「裁判官、支配者、債権者、貸し借り、罰、宗教、奴隷」等を表す[d-y-n]
    "dīn"という語は「宗教、法」という意味もありますが、ここでは「審判(最後の審判)」の意味でとれば良いでしょう。

上の単語をつなげると、「審判の日の支配者に(称賛は属す)」という意味になります。

第五節

إِيَّاكَ نَعْبُدُ وَإِيَّاكَ نَسْتَعِينُ ٥

各単語の音: ʾiyyā-ka naʿbudu wa ʾiyyā-ka nastaʿīnu

各語の意味

  • ʾiyyā-ka => ʾiyyā + ka

    各語の意味

    • ʾiyyā: 人称代名詞結合形対格の強調語
    • ka: 男性単数2人称代名詞結合形対格. ここでの「あなた」は「アッラー」を指すと考えれば良いでしょう。
  • naʿbudu: 語根は「奴隷、服従、崇拝」等を表す[ʿ-b-d]
    「崇拝する、仕える」を意味する第一型動詞"ʿabada"の一人称複数未完了形。
    ここでの「私たち」は「神を信じる人間」という意味でしょうか。
  • wa: 接続詞. 英語で言う'and'です。
  • ʾiyyā-ka: 上に出てくるものと同じです。
  • nastaʿīnu: 語根は「シマウマの群れ、中間、中年、助け」等を表す[ʿ-w-n]
    「助けを求める」を意味する第十型動詞"istaʿāna"の一人称複数未完了形。

上の単語をつなげると、「あなたこそを私たちは崇拝し、あなたこそに私たちは助けを求める。」という意味になります。

第六節

ٱهْدِنَا ٱلصِّرَٰطَ ٱلْمُسْتَقِيمَ ٦

各単語の音:ifdi-nā aṣ-ṣirāṭa al-mustaqīma

各語の意味

  • ifdi-nā => ifdi + nā

    各語の意味

    • ifdi: 語根は「導き、贈り物」等を表す[h-d-y]
      「正誤を見分ける能力を与える、導く」等を意味する第一型動詞"hadā"の単数命令系。神に対して「導け!」と命令するのは変な感じがするので、日本語の意味的には「導いてください」ぐらいになると思います。
    • nā:一人称複数代名詞結合形対格
      "ifdi"と結合して「私たちを導いてください」という意味になります。
  • aṣ-ṣirāṭa: ラテン語を通した古典ギリシア語からの借用語クルアーン辞書)
    ただ、Wiktionaryではシリア語を通したラテン語("strāta")からの借用語となっていたので、諸説あるようです。意味は「道」です。
  • al-mustaqīma: 語根は「立つこと、まっすぐであること、支え」等を意味する[q-w-m]
    「(まっすぐに)立つ、公正である、正しい」等を意味する第十型動詞"istaqāma"の能動分詞系単数対格

この説の単語をつなげると、「私たちを正しい道へと導いてください。」という意味になります。

第七節

صِرَٰطَ ٱلَّذِينَ أَنْعَمْتَ عَلَيْهِمْ غَيْرِ ٱلْمَغْضُوبِ عَلَيْهِمْ وَلَا ٱلضَّآلِّينَ ٧

各単語の音: ṣirāṭa alladhīna ʾanʿamta ʿalay-him ghayri al-maghḍūbi ʿalay-him wa lā aḍ-ḍāllīni

各語の意味

  • ṣirāṭa: 以前登場した"aṣ-ṣirāṭa"の定冠詞がない形です。
  • alladhīna: 関係代名詞"alladhī"の複数男性系
    前の語が単数形であるので、これは先行詞がなくて「人々(those who)」を意味する形です。
    "alladhī"には双数を除き格変化がありませんが、ここでは先行する"ṣirāṭa"にかかって「~な人々の道」という属格の役割を持ちます。
  • ʾanʿamta: 語根は「恵み、喜び、報酬」等の意味を表す[n-ʿ-m]
    「祝福を与える、恩寵を与える、祝福する」等を意味する第四型動詞"ʾanʿama"の完了形二人称単数系
  • ʿalay-him => ʿalā + hum

    各語の意味

    • ʿalā: 「~に対して、~の上に」等を意味する前置詞
      この前置詞は人称代名詞結合形と組み合わさると"ʿalay"という綴りと音になります。
    • hum: 人称代名詞結合形3人称複数系
      この代名詞が示すのは前の"alladhīna"つまり「人々」になります。前の語がカスラの二重母音なので、音が"him"になっています。
  • ghayri: 語根は「変化、熱心、嫉妬、略奪」等を表す[gh-y-r]
    否定名詞"ghayr"の属格。これも前の"alladhīna"に係って「~でない人々」という意味を作ります。
  • al-maghḍūbi: 語根は「怒り」等を表す[gh-ḍ-b]
    「怒る、(神が)~を非難する」等を意味する"ghaḍiba"の受動分詞属格.後続の"ʿalay-him"とあわせて「(神から)非難される者たち」という意味になります。
  • ʿalay-him: 前に出てきた語と同じです。 "ghayri"から1セットで「神から非難されない人々」という意味になります。
  • wa: 接続詞。前に出てきた語と同じです。
  • lā: 否定詞。「~でない」という意味になります。
  • aḍ-ḍāllīni: 語根は「迷う、正しい道を外れる」等を表す[ḍ-l-l]
    「迷う、誤る」等を意味する第一型動詞"ḍalla"の能動分詞複数形属格. この語は前の"alladhīna"を形容していると見て良いでしょう。

この節の単語をつなげると「あなたから祝福を受け、神から非難もされず、正しい道から迷ってもいない人々の道へと(私たちを導いてください)」という意味になります。この節は前節の「公正な道」をさらに説明しているものだと思われます。

第一章の訳まとめ

第一節:慈悲深く憐み深いアッラーの名によって
第二節:称賛は諸世界の主人、アッラーに属す
第三節:慈悲深く憐み深い方に
第四節:審判の日の支配者に
第五節:あなたこそを私たちは崇拝し、あなたこそに私たちは助けを求める
第六節:私たちを正しい道へと導いてください
第七節:あなたから祝福を受け、神から非難もされず、正しい道から迷ってもいない人々の道へと

終わりに

 以上がクルアーン第1章の逐語訳になります。
 アラビア語の基本的な文法事項を抑えていれば、全て理解できたと思います。
 クルアーンは最初の参考資料の所に挙げたように日本語訳やクルアーンの語彙辞書なども出版されているのに加え、母音記号も振ってあり、最初に読むアラビア語古典として一番いいのではないでしょうか。
 今回ブログを書いてみて、原語で古典を読むことの楽しさは、日本語ではどうしてもスラスラと読み飛ばしてしまう所を、一語一語意味をとってじっくりと読むという所にあると感じました。